3. 生活訓練の内容

まず、視覚障害者の生活訓練は、視覚障害によって、何に不自由しているか、またリハビリテーション・ゴールは何かを的確に初期評価し、視覚障害者と話し合って、どのような訓練をするかを決定しなければならない。この初期評価は、訓練が進んでいくと、中期評価によって修正されることもある。最後には、視覚障害者のリハビリテーション・ゴールに照らして、生活訓練の目標が達成されたか終期評価をする。

ここでは、生活訓練を実施する上で、準備されるべき訓練内容について言及する。初期評価に基づいて、これらの内容から選択して視覚障害者に適した個々の訓練プログラムが策定される。

 

3-1. 歩行訓練(Orientation and Mobility)

歩行訓練は、視覚障害者とマンツーマンで実施される。視覚障害者が歩行することば、生命の危険を伴うことを忘れてはならない。ここでは自杖を利用した歩行手段の訓練内容について記述する。

(1)屋内歩行(Indoor Travel)
屋内歩行では、屋内を安全に効果的に単独歩行できるようにする。訓練課題は次のとおりである。

1)屋内を安全かつ効果的に歩行する。
2)屋内の移動技術を習得する。(上部防御、下部防御、顔面防御、頭部防御、方向の取り方、格子状探索法、周囲探索法、伝い歩き)
3)単独歩行への恐怖心を除去する。
4)屋内のメンタル・マップを形成する。
5)ランドマークや手がかりに関する知識を得、それらを有効に利用する。
6)屋内のナンバリング・システムに関する知識を得、それらを有効に利用する。
7)自力によるファミリアリゼーションを習得する。
8)方角概念を効果的に利用する。
9)落とした物を拾う方法を習得する。
10)伝い歩きしないで、空間の広がりを理解する。

(2)手引き歩行(Sighted Guide Travel)
手引き歩行は、健常者である第3者といっしょに歩行する手段であり、歩行手段の中でも心理的なストレスの少ないものである。しかしながら、常に第3者といっしょにいなけらばならない点で欠点をもっている。この訓練単元では、手引き歩行によって安全かつ効果的に歩行するとともに、第3者に手引き歩行を教えられるようにすることを目標とする。

1)視覚障害者の歩行手段について理解する。
2)手引き歩行の基本的な姿勢を理解し、実行できるようにする。
3)手引き歩行の基本的な姿勢の変形(身長差、高齢視覚障害者、複数の視覚障害者の手引きなど)を習得する。
4)狭所通過の技術を習得する。
5)開閉を伴うドアの通過技術を習得する。
6)方向転換の技術を習得する。
7)劇場での手引き歩行の技術を習得する。
8)階段昇降の技術を習得する。
9)着席の技術を習得する。
10)援助の受け入れと拒否の技術を習得する。

(3)屋外歩行への導入
屋外歩行への導入として、白杖の正しい理解と基本的な白杖操作を習得させ、直線歩行や白杖を所持しているときの手引き歩行ができるようにする。

1)自杖について正しく理解する。
2)白杖を所持して手引き歩行がスムーズにできるようにする。
3)白杖の寝り方を習得する。
4)対角線技術を習得する。
5)白杖による階段昇降の技術を習得する。
6)白杖の置き方を習得する。
7)タッチ・テクニックを習得する。
8)コンスタント・コンタクト・テクニックを習得する。
9)3点打法を習得する。
10)直線歩行ができるようにする。
11)ベアリングの修正ができるようにする。
12)物体への接触の方法を習得する。
13)物体の調べ方を習得する。
14)車への乗降の方法を習得する。

(4)住宅街の歩行の導入
住宅街の歩行に入る前に、静かな場所で歩道を安心して歩行し、屋外歩行の基礎的な白杖操作と視覚なそいでの歩行の原理を習得させる。

1)歩道上の直線歩行ができるようにする。
2)縁石を発見できるようにする。
3)歩道上での曲がり方を習得する。
4)簡単な道路横断ができるようにする。
5)横断歩道を発見できるようにする。
6)直線歩行とショアライニングの技術を選択して歩行できるようにする。
7)住宅街の環境概念(歩車道の区別の有無、区画、メインストリー卜、バス通り、角切り、バス停など)を理解する。

(5)住宅街の歩行
住宅街を安全に効果的に歩行できるようにする。

1)車昔の利用法を習得する。
2)住宅街の四つ角を目的地とした目的地を発見できるようにする。
3)住宅街の道路横断ができるようにする。
4)住宅街の区画歩行ができるようにする。
5)区画の中間にある目的地を発見できるようにする。
6)歩車道の区別のない道路を歩行できるようにする。
7)歩車道の区別のない道路の四つ角を発見できるようにする。
8)歩車道の区別のない道路の路地を発見できるようにする。
9)歩道橋を発見できるようにする。
10)住宅街で道順を自由に選択し、歩行できるようにする。
11)住宅街の歩行において距離感を利用できるようにする。

(6)商店街の歩行
商店街には、多くの障害物や通行人のために歩行が困難になってくる場面がでてくる。これららの困難な場面を理解し、歩行できるようにし、簡単な買い物ができるようにする。また、信号機のある交差点を安全に道路横断できるようにする。

1)商店街での直線歩行ができるようにする。
2)商店街での手がかりやランドマークの種類、タイプを理解し、利用できるようにする。
3)商店街のメインストリートを歩行できるようにする。
4)商店街で目的地を発見できるようにする。
5)信号機のある交差点の道路横断ができるようにする。
6)買い物ができるようにする。
7)アーケード街を歩行できるようにする。
8)踏切横断ができるようにする。

(7)繁華街の歩行
繁華街を安全に効果的に上品に単独で歩行できるようにする。また、交通機関を利周して、デパートや目的地に歩行できるようにする。

1)駅のロータリーの歩行ができるようにする。
2)バスを利用できるようにする。
3)バスを使用して目的地に歩行できるようにする。
4)駅の構造を理解し、駅構内を歩行できるようにする。
5)電車の東降を確実にできるようにする。
6)電車の乗降を組み入れた目的地を発見できるようにする。
7)繁華街の混雑地域を歩行できるようにする。
8)エスカレークー、エレベーターを利用できるようにする。
9)援助依頼と援助拒否ができるようにする。
10)電車の乗り換えができるようにする。
11)デパート内の歩行ができるようにする。
12)電話による目的地の発見ができるようにする。

(8)応用訓練
応用訓練は、今までの歩行技術を基礎に、視覚障害者に必要な地域を重点的に訓練し、視覚障害者の通勤ルートの歩行、職場内の歩行などが安全にできるようにする。

1)地下街の歩行ができるようにする。
2)時差式信号機のある交差点の道路横断ができるようにする。
3)スクランブル交差点の道路横断ができるようにする。
4)地下鉄の利周ができるようにする。
5)複雑な駅構内の歩行ができるようにする。
6)エアターミナルの歩行ができるようにする。
7)その他(田園地帯の歩行、遊園地、公園など)

 

3-2. 日常生活技術訓棟(Activities of Daily Livinng Skills)

日常生活技術訓練は、大別すると、身辺処理訓練と家事管理訓練に分かれる。身辺処理訓練は視覚障害者の身の回りの動作ができるようにする。家事管理訓練は、家庭内の動作ができるようにする。

(1)身辺処理(PersonalⅡanagement)

1)食事動作ができるようにする。
2)トイレを利用できるようにする。
3)衣服の識別と着脱ができるようにする。
4)入浴を安全にできるようにする。
5)歯磨き・洗顔・整髪・ひげそり・手足の手入れができるようにする。
6)化粧ができるようにする。
7)貨幣の弁別ができるようにする。
8)電話をかけられるようにする。
9)時計を利用できるようにする。
10)喫煙を安全にできるようにする。
11)礼儀作法を理解する。
12)身の回りの品物の弁別と整理ができるようにする。
13)寝具の出し入れや整理ができるようにする。
14)靴の手入れや整理ができるようにする。
15)金銭管理ができるようにする。
16)その他

(2)家事管理(Home Management)

1)部屋の掃除ができるようにする。
2)洗濯ができるようにする。
3)裁縫ができるるようにする。
4)調理ができるようにする。
5)買い物ができるようにする。
6)家計の知識と家計簿をっけられるようにする。
7)育児を理解し、育児の基礎的な知識を身につける。
8)包装ができるようにする。
9)書類の整理と保管ができるようにする。
10)家庭用器具の使用法と手入れができるようにする。
11)簡単な家庭用器具を修理できるようにする。
12)家庭生活における情報を入手できるようにする。

 

3-3. コミュニケーション訓練(Communication Skills)

視覚障害者は、音声によるコミュニケーションには障害をもていないので、主に読み・書きの問題を解決すことが重要である。さらに、視覚障害者のコミュニケーションは、多くのコミュニケーション・エイドが用いられている。これらのコミュニケーション・エイドを効果的に利用することが必要になってくる。また、訓練専門職は、どのようなコミュニケーション手段を主に利用するかを判断しなけらばならない。

(1)話し方・聞き方を理解する。
視覚障害者は、日常の会話の中で、話し手の身ぶりや表情を感じることが少ない。できるだけ、視覚障害者自身も身ぶりや表情を出すように会話を楽しむことが必要である。また、集団における会話において、だれが発言しているかわからない状況にでくわす。このような場合、聞き方の指導も必要になってくる。

(2)テープレコーダの利用法を習得する。
点字を利用できない視覚障害者は、テープレーコーダを利用することによって、コミュニケーション手段を獲得することもある。テープレコーダは、学習場面、電話でのやり取りの中で有効に活用される。

(3)点字を習得する。
視覚障害者にとっては、凹凸で表出される点字は有効なセミュニケーション手段であり、世界的に最もポピュラーなものである。点字の読み書きを習得するためには、特に中途視覚障害者の場合、多くの労力と忍耐強さが必要になってくる。

(4)ハンドライティング
ハンドライティイングは、全く見えない視覚障害者でも、通常の文字を書けるように指導する。
簡単な補助具を用いることによって、通常の文字を書くことができる。

(5)ワープロを習得する。
視覚障害者が、通常の文章を書く場合、マイクロ・コンピュータを利用し、音声化することによって可能になる。コンピュータの操作そのものは簡単であるから、視覚障害者には有効なコミュニケーション手段として利用できる。

(6)その他のコミュニケーション・エイドの利用法を習得する。
視覚障害者は、マイクロ・コンピュータを活用することによって、多くのコミュニケーション手段を獲得できる。点字入力する視覚障害者のためのコンピュータ、あるいはパソコン通信など福祉機器が開発されている。

 

3-4. ロービジョン訓練(Low Vision)
ロービジョン訓練は、ロービジョンの人たちが保有視覚機能を最大限に活用し、生活自立を獲得することを目的としている。したがって、ロービジョンの人の視覚機能の評価が重要になってくる。

(1)近見視(Near Vision)
近見視は、主に読み書きの問題を解決することにある。弱視眼鏡、ルーペ、拡大読書器などロービジョン・エイドの活用から視知覚訓練まで実施する。

(2)中間視(Intermediate Vision)
近見視が30cm以内の視距離で行う活動に対して、中間視は前腕と上腕を合わせた視距離の活動を改善する。調理、裁縫などの日常生活技術の問題を解決することになる。照明、コントラストなど環境改善も行う必要がある。

(3)遠方視(Distance Vision)
遠方視は、主にロービジョンの人の歩行に関する問題を解決することを目的としている。まぶしさの軽減、信号機の発見方法、夜間の歩行、単眼鏡の利用などを実施する。

 

3-5. レクリエーション訓練(Recreation Activities)

レクリエーション活動は、視覚障害者の生活自立に欠かせないものである。特に、中途視覚障害者はレクリエーション活動に対して消極的な態度をとりがちであるが、視覚障害者のためにルールを修正したり、補助具を開発することによって、多くのレクリエーション活動ができるようになる。家庭内でできるトランプ、将棋からスポーツの要素をもっている盲人野球、盲人卓球、盲人バレーボール、盲人ゴルフなど。

3-6. 視覚障害者が生活するための知識(Culture)

視覚障害者は、自分自身を取り巻くいろいろな制度や社会資源について知識をもっ必要がある。

法律的な定義、生活実態、就労状況、福祉事務所・更生相談所の役割、身体障害者手帳の交付と障害認定、更生医療、法律と福祉措置、更生資金、雇用保険、費用徴収と生活保護法、不在者投票の仕方、ボランティア活動、更生訓練費、期末一時扶助、就職支度金、盲導犬の貸与、地域施設利用など、多くの知識を知っておくべきである。

投稿日:1997年3月1日 更新日:

みんぐる

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