社会適応の過程において、生活訓練専門職は、訓練・指導をどのように展開すべきか、つまりどのような訓練プログラムを策定すべきかを考察しなければならない。一人一人の視覚障害者のニーズや能力に応じた訓練プログラムを提供する必要があることは言うまでもない。
現状では、次のような訓練の柱によって展開されているのが一般的である。
(1)歩行訓練(Orientation and Mobility)
(2)日常生活技術訓練(Activities of Daily Living)
(3)コミュニケーション訓練(Communication Skills)
(4)レクリエーション訓練(Recreation Activities)
(5)ロービジョン訓練(Low Vision)
(6)視覚障害者が生活するための知識(Culture)
これらの柱に沿って、初期評価に基づいて生活訓練プログラムが策定され、実施される。
歩行訓練は、視覚障害者にとってきわめて困難な課題であるが、訓練を通して単独歩行ができるようになると、精神的な独立心も芽生えてくるので重要な訓練である。まったく歩行できない状態からなんとか単独で歩行できるようになると、自分自身に自信をもち、ほかの訓練に対しても動機が高まることが臨床的に明らかになっている。また、単独歩行が難しい訓練生には、強いて単独歩行を目指すのではなく、独立心を養うように配慮すべきである。歩行訓練は、訓練生のニーズに応じて実施されるが、一般的に、屋内歩行、手引き歩行、屋外歩行への導入、住宅街の歩行、商店街の歩行、繁華街の歩行、応用歩行の訓練単元が準備されている。視覚障害者の歩行手段は、自杖による歩行、盲導犬による歩行、手引きによる歩行、電子機器を利用する歩行、電子機器と他の歩行手段を併用する歩行、残存視覚機能を利用する歩行がある。これらの歩行手段のどれを用いるかが専門職によって判断されなければならない。
コミュニケーション訓練は、視覚障害者がコミュニケーション手段を獲得するように訓練・指導される。よく視覚障害者=点字という図式を描きがちであるが、必ずしも視覚障害者のすべてが点字を習得できるわけではない。糖尿病性網膜症などの場合、知覚鈍麻があり、点字の習得は困難になることもある。視覚障害者のコミュニケーション手段として訓練しているものに、話し方・聞き方、テープレコーダの使用、ハンドライティング、音声電卓、点字、オブタコン、ワープロなどがある。これらのコミュニケーション手段の獲得が視覚障害者の生活自立に欠かせないものである以上、これらの手段のどれかを習得することが必要になってくる。話し方・聞き方の訓練は、視覚障害者の音声によるコミュニケーションは支障がないように思われるが、非言語的なコミュニケーションは苦手である。例えば、身振り、表情などわれわれが、コミュニケーションで重要な手がかりとして活用しているものを理解できない。従って、話し方・聞き方の訓練は、視覚障害者の会話の中で重要である。
日常生活技術訓練では、一般的に、身辺管理と家事管理に大別される。
視覚障害者にとって、日常生活技術はできて当たり前だという意識があり、訓練のモチベーションを高めるのが難しい訓練である。インストラククーが課題を与えても、訓練生は言葉でその課題はできると思っている。実際にその課題を遂行させると、できないことが多い。できると言っても、視覚障害が起こる前のことだったりする。日常生活技術訓棟は、歩行訓練などと異なって、ゼロからの出発でないところに訓練の難しさがある。また、歩行訓練によって、ある目的地まで歩行できたとしても、日常生活技術が確立されていなければならない。例えば、買物に行くために、スーパーマーケ ットまで歩行できたとしても、買物の技術がなければならない。このように日常生活技術は、ほかの訓練と密接に関係しているので、常に日常生活技術がどの程度習得さているかを観察する必要がある。
レクリエーション訓練は、視覚障害者の余暇活動を広げるためになされる。余暇活動の重要性は、言及するまでもないが、視覚障害者にとっては移動という問題があるので、レクリエーション活動を通して生活自立の動機が高まることもある。レクリエーションには、文化的なレクリエーションとスポーツ的なレクリエーションがある。前者はトランプ、将棋、囲碁、ラジオなどの余暇活動があり、後者は盲人卓球、盲人野球、盲人ボーリングなどあるが、これらの余暇活動は、工夫することによって、さまぎまな種目ができることを理解すべきである。
ロービジョン訓練は、ロービジョンの人達に対して行うもので、近見視、中間視、遠方視の訓練が行われる。近見視は、読み書きを、中間視は日常生活技術などの作業を、遠方視は移動をそれぞれ中心にして訓練を実施する。ロービジョン訓練は、残存視覚機能を最大限に活用することを主眼に行うので、ここでは光源識別ができる者から行うという立場をとる。WHOのロービジョンの定義に沿った対象者だけを訓練するとは限らない。視覚的なオリエンテー ションが利用できれば、それを最大限に活用する必要がある。
視覚障害者が生活するために必要な基礎知識は、視覚障害者にとって生活自立する上で欠かせないものである。政府のサービス、視覚障害者自身の年金制度、リハビリテーションセンターを利用する方法などかれらを取り巻く環境について知識を獲得する。
これらの生活訓練の柱は、すべてを網羅しているわけではない。視覚障害の程度、視覚障害者が置かれている状況、パーソナリティなどの要因によって、訓練プログラムを策定するべきである。