脳損傷後の運動回復を増強するための薬理学的アプローチが動物実験と臨床研究の両者で試みられてきた(Bach-y-Rita et al,1988)。ノルエビネフリン作動薬は運動回復を促進し、括抗薬は運動回復を遅延させたり、運動欠損を再度出現させる(Feeneyetal。1982,Hodvaetal,1984)。脳卒中患者の運動回復に対するノルエビネフリンの前駆物質であるアンフェタミンの効果を検討した予備的研究によれば,理学療法と併用した1回のアンフェタミン投与は,理学療法だけを受けた患者と比べて,運動回復を高めたという(Davisetal,1987)。訓練後のエビネフリン投与も,動物における複数の型の学習課題で,その保持に影響を与えている(McGaugh1987),Feeneyetal,(1982)は皮質損傷を受けた動物の移動機能に対するアンフユタミンの効果を検討した。損傷後24時間でアンフェタミン投与を受けたラット群は,生理的食塩水を投与されたラット群と比較して,急速な回復をみせた。アンフェタミンの薬物中毒による身体運動を抑制すると,この効果は遮断される。しかし,最終的な移動機能は両群間に相違はない。これらの結果はアンフェタミンによってもたらされた覚醒状態の上昇が身体運動の効率を促通し,機能回復に必要な時間が短縮したことを示唆している。Truebloodetal。(1989)は,脳卒中患者で下肢のバランス安定性と前方への移動のための骨盤運動のPNF訓練を15分間行い,治療直後の改善が30分以上は継続しないと報告した。PNFが脳波覚醒や行動覚醒をもたらし,一時的なパフォーマンス向上を結果することは知られている(Nakamura1983a。Nakamura etal。1986)。ノルエビネプリン作動薬である甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)は生体のモノアミン系を介して覚醒状態を上昇させ,機能回復を促進することが確かめられている(Kelleret al。1974),たとえば、脳卒中患者に10日間にわたって2mgのTRHを投与すると、医学的リハビリテーションの入院期間が短縮し,患者の社会的技能は向上する(千田・他1987)。
SP,A-IK,N-IKおよびMWSに対するTRHの効果を片麻痺患者7名で検討した。生体力学的変数の測定はTRH2mgの投与前と投与(静注)後10-20分に行った。表17に各変数の平均値を示す。TRH投与後に。A-IKは有意に増加,SPは減少,MWSも増加した。しかし、N-IKはTRHの影響を受けず、TRH効果の特異性を示唆するかのようであった。CAGT中の歩行速度の利得は,物理的刺激によって脳波覚醒応答の生じる患者のほうが生じない患者よりも大きい(関・他1990)。この報告はノルエビネフリン作動薬は,歩行能力を含めて,脳卒中後の運動回復を促進するという説を支持している。