医学的リハビリテーションの目的のひとつは,治療的介入によって患者の機能的状態を改善することにある.各種の介入や治療の効果を評価するためには,疾病の自然経過やその帰結はどのようになるのかについて知っていることが必要である(Langton-Hewer1987).臨床症状や徴候と冒された臓器や組織の病理学的変化との間には有意な関連性があると仮定して.伝統的な医学モデルにおいては.疾病の自然経過は一定期間に生じた臨床的発現の変化として,しばしば記述されている.この戦略は,医学的リハビリテーションにおける患者の身体的能力低下や機能的状態の自然経過についての研究にも利用可能であろう.そのため,機能評価のための信頼性の高い尺度を作成することが重要となる.そのような尺度は身体的能力低下や機能的状態の自然経過を記述するのに利用されるであろう.
Partridgeetal.(1987)によれば,脳卒中後の身体的能力低下の回復は予測可能なパターンにしたがい,個人の進歩を比較できるようなプロフィールを作成することは可能とされている.神経生理学的アプローチ(Brunnstrom1970)や神経発達的アプローチ(Bobath1966)のような脳卒中患者のリハビリテーション技術も,それらのアプローチの前提は異なっているが、共通して回復の自然経過を基盤にすえている.
脳卒中患者の機能回復において観察される自然経過に基づいて,患側上肢の運動機能を評価するために上肢機能検査は開発された(Moriyama1987).複数のリハビリテーション病院に勤務している作業療法士たちの報告によれば、上肢機能検査は簡単であり、臨床場面における利用も容易とされている.
森山・他(1990a)は,12週以上の経過観察を行った片麻痺患者141名のデータを分析し,脳卒中発症後の期間と上肢機能スコアとの関係は84名(60%)の患者で双曲線関数に適合すること,大部分の患者は患側上肢の機能回復が規則的であることを報告している.その後,森山・他(1990b)は,麻痺側上肢の運動回復を目的として.回復パターンの規則性に基づいたプログラム学習を開発し.1988年7月から実用に供している.さらに尺度の一次元性と加算可能という間隔尺度に必要な条件を満たすように、上肢機能検査のスコア化に一部の手を加え,上肢機能検査-ⅠⅠが臨床場面に導入された(森山・他1991).
このマニュアルには,上肢機能検査-ⅠⅠ(以下、上肢機能検査:MFT)およびMFT-スコア(以下,MFT-S)回復プロフィールに基づく作業療法の詳細を記述する.