3 自動車運転に適した義肢装具

身体の一部を切断、離断した方が、運転に必要な身体機能を補う方法として、義肢装具を身体に装着して直接運転操作に使う場合と、運転姿勢を保つために間接的に使う場合がある。一般的な義肢は、失われた手足の機能または外形を補い、装具は肢体の機能補助を目的に使われているが、運転用を目的に使用する義肢装具の基準はなく、運転用として考えられていない。注意点は、義肢装具は一般的な日常生活の中での使用条件を満たしていても、運転用義肢装具としての条件を満たすとは限らないことである。本来、運転はダイナミックな評価を前提に成り立っている。従って、運転用を前提に操作性、耐久性、強度に配慮した義肢装具の製作が必要になる。

1)前腕義手
長断端、中断端の方が能動義手、筋電義手でハンドルを操作する場合は、手先具に合わせた旋回装置をハンドルに取付けることで円滑なハンドル操作ができる。運転中の耐久性、適合性、快適性を保つためには、実際に操作させて義手の状況を確認することが大切である。特に能動義手は、ハンドル旋回中に能動フックが開き旋回装置から外れることがあるので、開かないような配慮が必要である。短断端の方が義手でハンドル操作をする場合は、既存のハンドルを旋回する時に約25N~35Nの操作力を必要とするため、ハンドル旋回中にソケットから断端部が外れることや、装着部に痛みを生じることがあるので注意が必要である。極短端断の方は、義手でのハンドル操作は適さない場合がある。

2)上腕義手
運転作業に限定して上腕義手の機能をみると、操作力機敏さ正確さの不足によってハンドル操作はもとより、セレクトレバー、駐車ブレーキ、方向指示器、ワイパーレバーなどの補機操作も困難になることが多い。しかし、義手の習熟度と装置の形状や装置の取付け位置の変更によっては、一部の補機操作が可能な場合がある。

3)下腿義足
長断端の方は義足との適合性が良好であればアクセルペダル ブレーキペダル、クラッチペダルの操作は可能である。乾燥路面でアンチロックブレーキシステムが作動する時のブレーキペダルを踏む踏力は、操作力の大きい自動車で約450Nの力が必要になるので強度や耐久性に配慮が必要である。
中断端の場合は義足の重量、適合性、習熟程度によってはペダルの操作能力は異なるため、実際に操作させて義足の状況を確認することが大切である。特に、中断端でも断端が短い方、または短断端の方は、素早くペダルを踏み替えた時に、足部が振れて正確にペダルを踏めないことがある。この場合は、手動アクセルブレーキ装置を使用し上肢でアクセルとブレーキを操作する。

4)大腿義足
大腿義足を装着した肢では操作力、機敏さ、正確さの不足からペダルを直接操作することが困難である。片側大腿義足の方は、健足でアクセルペダルとブレーキペダルを操作する。長断端、中断端の場合は、急制動や急旋回による加速度が加わった時に、断端部で座面を蹴るような動きにより、健足にしっかりと力が加わるため、大腿義足を装着しなくても運転姿勢とブレーキ操作力は保たれる。短断端では大腿義足を装着することで、健足にしっかりと力が加わり運転姿勢とブレーキ操作力が保たれる。

5)片側股関節離断片側骨盤切断
片側股関節離断または片側骨盤切断の方は、健足でアクセルペダルとブレーキペダルを操作する。運転中は急制動や急旋回による加速度が加わるが、片側股関節離断の方または片側骨盤切断の方で義足を未装着の場合、健足はアクセルブレーキペダルの操作のため踏ん張れないことに加えて、臀部の切断側と健足では高さが異なるため運転姿勢とアイポイントが変化する。結果として運転操作の随意性に問題が生じるため義足使用が条件となる。なお、義足が使用できない場合は、前後の加速度の影響が少ない手動アクセルブレーキ装置を使用し、上肢でアクセルとブレーキを操作すると良い。

6)上肢装具
片側腕神経叢麻痺で脊髄損傷の方は、上肢装具を装着してアクセルとブレーキを操作する (図24)。ハンドル操作の時に、運転姿勢を安定させようと上肢装具の側に重心が移動することに加え、急制動時には約100N以上の力も加わるため強度や耐久性に配慮が必要である。

7)短下肢装具
足首の伸展によって、つま先がペダルに引っかかる方、踏力が不足する方は短下肢装具を装着することで操作の安定性が向上する。操作力の大きい自動車では約450Nの踏力が発生するため、強度や耐久性に配慮が必要である。

投稿日:2004年12月27日 更新日:

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