視覚障害者が歩行する際に保有視覚を利用することは、歩行中の情報収集手段として活用できる場面が多い。誘導用ブロックは主に黄色を用いるが、その明度・輝度等が他の舗装物とのあいだに明瞭なコントラストをつくる。そのため、路面上の物体として把握しやすく、視覚的に活用することができる。しかし、低視力者の場合、保有視覚が不鮮明であるために、視覚的に把握した事物を誤認し、歩行中の安全性を低下させる危険もある.。そのため、訓練対象者と共に保有視覚を用いるか他の感覚活用を優先するかを確認し、安全性を維持することが望ましい。
歩行訓練では、訓練対象者の保有視覚の活用と自校操作技術が相互補完できるよう指導する。視覚的な情報の活用と白杖操作の併用は、多様な感覚を場面に応じて使い分ける必要がある反面、視覚活用が優位になりすぎ安全性が低下する場合があることに留意したい。保有視覚を活用した歩行の場合も、メンタルマップの作成や移動中の定位などの基本技術が必要であるにもかかわらず、視覚優位の行動ではそれらがおろそかにされやすい。活用可能な視覚的情報を、ランドマークとして強く意識付けするなど、視覚情報の意味付けと取捨選択が必要になる。
視力の状況に応じ、光学的な補助具を利用する。遠方の事物を把握するための単眼鏡、まぶしさを回避するための遮光眼鏡など、使用目的や種類は多岐にわたる。低視力者の訓練を担当する専門家と、効果的な訓練を実施できるよう連携することが望ましい。
① 単眼鏡
低視力者にとって、視覚的な把握が難しい遠方の物体を把握するために活用する。看板、信号機、駅に掲示された料金表や時刻表など、目的に応じた探索の訓練をする。
② 遮光眼鏡
普通の明るさの日なたや電灯に対して、まぶしさを感じる低視力者は数多い。まぶしさを感じやすい波長の光だけをカットする、特殊なレンズを活用し、日常生活や外出をしやすくすることに役立つ。
明るさの推移と共に、低視力者の歩行状況が変化する場合がある。明順応・暗順応の障害として、蓋明や暗所での極端な視力低下などが生じる。それぞれの状況に合わせ、遮光眼鏡の活用や夜間歩行訓練などの訓練を実施する。