日本における難聴乳幼児の早期教育はこの20~30年位の間に急速に充実してきた。今、成人した彼らは、自らのことばで、自らの難聴について語り、難聴者としての生き方や可能性の拡がりについて、また難聴児教育やそのハビリテーションについても語る時代になった。それは日本における難聴児の早期発見・早期教育の成果や今後の課題を示すものでもある。
この小冊子は、日本の難聴乳幼児に対するハビリテーションの実際を紹介することを目的としている。日本における難聴乳幼児に対するハビリテーションは、教育、医療、福祉の三分野で担われている。ハビリテーションの在り方は、本来その国や地域の文化、制度、社会的環境、人々のニーズ等によって異なり、それぞれの事情に応じた制約を受けている。よって日本のやり方が、どこの国又は地域でも通用するはずもない。それぞれの抱える制約の中で、地域特性に応じた最良の方法を見付け出していくことが、ハビリテーションの最も現実的な対策であろう。この小冊子の中から、自分の国や地域に利用できるヒントやアイディアをみつけだし、応用していただけたらと思う。
日本の早期ハビリテーションの成果は目をみはるものがある。100dBを越える重度難聴児・者の中には流暢に話し、電話を使い、音楽を楽しむなど、残存聴力を十分に活用している人が増えてきている。さらにスピーチだけでなく、手話も使い、健聴者・難聴者の垣根を越えて豊かなコミュニケーションを実現し、多くの人の信頼を得、社会的に優れた仕事をしている人も多い。彼らの存在は、難聴児・者に対する旧来の見方を変える力にもなっている。しかしながら日本の社会環境はまだまだ難聴者に厳しく、十分とは言い難い。それは、一人一人の難聴への理解や対応に始まり、教育システム、職場環境、社会的情報システムまで多方面に渡る問題である。そして今やそれらの問題は、難聴児・者自身から提起され、両親や難聴に関わる専門家や関係者と共に解決を探る時代へと向かいっつあるように思われる。
このような成果を支えたのは、難聴の早期発見とそれに続く早期ハビリテーションであり、補聴器による残存聴力の活用である。このことは幼い難聴児を学校で教育するという考えから、家庭で育てる方向へ変え、両親とのコミュニケーションや日常の家庭生活そのものを重要視することになった。この小冊子で紹介するハビリテーション・プログラムは、このような考えを重視した聴覚一口話的アプローチが主体となる。このアプローチは、現在の日本の難聴乳幼児のハビリテーションの方法としては、最も一般的な方法である。しかしながらこの方法は、手指的手段やトータルコミュニケーションの考えを排除するものではない。子供の実際的な生活やコミュニケーション、子供の発達や学習を考慮し、必要な手段や感覚を適切に利用することが重要である。
乳幼児のハビリテーションは、多様であり、個別的であることが基本である。