難聴という障害は治癒するわけではない。聴覚活用が進み、言語習得が進み、スピーチが熟達しても、いろいろな問題が生じてくる。聴力の管理、楠聴器の調整などから、進学、就職、結婚の問題まで様々である。思春期、青年期には、アイデンティティの問題に悩む人も少なくない。軽、中等度難聴者の方が却って、障害受容やアイデンティティの問題にぶつかることが多いともいえる。
このような問題に対して、日本ではまだ十分な援助システムはできあがっていない。一部の専門家が個人的に対応したり、親の会の組織が相談にのっている。今日本では、これらの問題に対しては、難聴者自身の団体が大きな力になってきている。各地域の難聴者や聾者の会が、相談会を開催したり、行政に働きかけ、聴覚障害者の相談センター設置にのりだしたりしている。また補聴機器や生活援助機器、地域サービスなどの情報提供なども積極的に行われている。
大学への進学者も増え、手話通訳やノートテイクサービスも少しずつ向上してきている。まだボランティアへの依存も大きいが、学校や一般学生の理解も進んできている。聴覚障害者を対象とした筑波技術短期大学も1987年に関学した。デザイン学科、機械工学科、建築工学科、電子情報工学科(電子工学専攻、情報工学専攻)の4学科5専攻からなる3年制の短期大学である。これによってこれまでの大学進学者は、はとんどが普通高校の出身者であったが、聾学校出身者の大学進学の機会が増加することとなった。現在では、聴覚障害者の高等教育(大学、専門学校等)への進学率は約10%程度になっている。
また急速に近代化し、高度な経済成長と情報化社会の現在の日本では、他の先進諸国と同様、心身症、神経症、精神病などの病気が増加してきている。難聴児についても、他の健聴児同様、不登校、いじめ、差別などの心理的ケアの必要な子供が増えてきている。聴覚障害についての知識を持ち、聴覚障害児・者と十分なコミュニケーションをとれるカウンセラーや精神科医の必要性も高い。
難聴乳幼児のハビリテーションとは、単に聴能言語的側面のサービスだけではなく、このように子供を取り巻く種々の問題に対応し、乳児期から成人までのライフスタイルを考えたハビリテーションシステムを構築していくことである。