難聴の発生率を確定することは難しいが、一般に中等度以上の感音難聴児は0.1~0.3%程度といわれている。仙台市での小、中、高校在籍児の検診結果をみると、1981年から1988年の8年間で0.58%から0.85%であった。これには中耳炎などによる軽度の難聴も含まれている。難聴は早期発見し、早期に適切な措置を講じることで、その後のハンディキャップを著しく軽減できる。しかし放置されると、わずか3 0~40d Bの軽度難聴であっても、情緒不安定や学力不振などの影響があることが分かっている。
高度難聴はまず親や家族によって気づかれることが多い。母と子の教室の1988年から1989年の資料によると2)、来室した160名中61%が1歳までに家庭で異常に気づいており、2歳までの発見は91%にのぼる。しかしこれらは高度難聴が多く、全体の72%が聴力レベル81d B以上であった。また1992年から19 93年に帝京大学附属病院耳鼻科で難聴の診断を受けた211名中2歳未満の発見は36%であった6)。3歳未満までだと55%になり、そのうち34%は7 0d B以上であった。また全体の74%が親によって異常がきづかれている。しかしながら71d B以上の難聴でも発見が遅れることもあり、3歳過ぎの発見が16%にのぼる。一般的には7 0d B以下の難聴は発見が遅れることが多く、発音の不明瞭さや言語発達の遅れが気になりだしてから難聴に気づいたりり、幼稚園や保育園などの集団に入ってから発見されることも多い。
そこで早期発見を効果的に進めるためには、①親への啓蒙活動 ②健診システムの充実が必要とされる。
日本では保健所が中心になり、定期的に乳幼児健康診査を実施している。難聴のスクリーニングについては、3ケ月児、1歳6ケ月、3歳で実施される。実施方法は地域により様々であるが、1歳6ケ月健診では高度難聴を、3歳児健診では軽~中等度難聴の発見に力をいれている。健診を効果的に実施するためには、次の点を考慮する必要がある。
① 難聴発生危険因子(High risk)の調査
② 聴覚に関する質問紙
③ スクリーニングのための検査方法
<徳島県における1歳半健診>
徳島県では1987年より1歳半健診聴力スクリーニングが実施されている。健診は問診票によるチェックと聴力スクリーニング検査からなっている。聴力スクリーニングはInfant Audiometerを利用し、震音(warble tone)、50d Bを用いる。表-2は1995年までの健診結果である。46,2524人の受診児中難聴児は12名(0.03%)であった。聴覚スクリーニングの受診率ははぼ70%程度である。
徳島県では1歳半スクリーニングを実施したことにより、難聴の発見年齢が、実施前平均2.1歳から実施後平均1.2歳と急速に早まっている。また聾学校が健診に中心的に関わっているため、発見から措置の流れがスムースに進み、親へのケアが準備されていることも特筆すべき点である。
<3歳児健診>
日本では1990年より3歳児健診に聴覚スクリーニングが加わり、全国的な規模で実施されるようになった。
健診方法は地域により異なる部分もあるが、①聴覚に関するアンケート ②家庭での聴覚検査の実施 ③ティンパノメトリー ④純音聴力検査 ⑤耳科検診などを実施している。これは中等度難聴、溶出性中耳炎、片側難聴、高度難聴の取りこぼし例などの発見を目的にしている。家庭での聴覚検査は、①ささやき声による聞こえの検査 ②指こすりによる聞こえの検査(図一9)からなり、検査の必要性と方法の説明、検査シート、聴覚に関するアンケートが家庭に送付され、それを3歳児健診時に持ってくるようになっている。田中(1994)8)によると3歳児聴覚健診導入後は、保健所から病院に紹介されてくる患者数は約3倍増加し、その70%以上に難聴が認められたと報告している。これらの事実は啓蒙的な意味も併せ、健診制度のもつ有用性を示唆するものである。