2.日本における養成・研修

ハビリテーションの成果を握る最も重要な鍵は人材育成である。しかしながら優れた人材を育成することは容易ではない。

現在、日本で難聴乳幼児の指導に携わる専門家は主に聾学校教員と聴能言語専門職員である。聾学校の教員は、法律上は聾学校教員免許を取得していなければならないが、実際に有している人は30%余りに過ぎない。聴能言語専門職についてはまだ国家資格がないことから、専門課程を終了していない職員もいる。また専門教育を受けていてもそれだけでは専門家としての資質や実力を備えているとは限らない。十分な資質を備えた専門家を養成することは、日本においても今もまだ重要な課題である。

<聴能言語専門職の養成>

聴能言語専門職の養成は、1971年 国立聴力言語障害センター附属養成所で開始された。4年制大学卒業が応募資格であり、養成年限は1年間であった。当時日本には、大学の教育学部に聾学校教員養成課程と言語障害教育教員養成課程があったが、言語病理学やオージオロジーの専門課程はなかった。当時の日本の状況を考え、言語障害も聴覚障害もどちらも対応できる人材の養成を考え、“聴能言語専門職”と命名し、1年間1545時間という膨大なカリキュラムが準備された。その後、1979年に組織の改編があり、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院聴能言語専門職員養成課程として引き継がれ、現在に至っている。1992年からは養成年限が2年になり、臨床実習の充実がはかられるようになった。しかしながら難聴乳幼児のハビリテーションという観点からみると、オージオロジーに関するカリキュラムは十分とはいえない。日本ではこの領域において専門分化は十分すすんでいない。直接指導に携わる専門家に、小児オージオロジストや教育オージオロジストとしての技能も要求されており、それに必要なカリキュラムの充実が今後の課琴でもある。

現在(1997年3月)日本の聴能言語専門職の養成は、4年制大学が3校、3年制短大が1校、専門学校が12校あり、年間約550名余りの卒業生がでる予定である。大学院コースも2校にあり、研究体制も徐々に整いっつある。養成カリキュラムの構想の一例を図-5に示す。聴能言語専門職の養成課程の卒業生は、大多数が医療と福祉の現場ではたらいており、教育現場への就職は少ない。また現在国家資格はなく、民間の認定資格によ っている。

<学校教育における専門教員の養成>

日本の現在の教育制度は1947年の学校教育法によっている。聾学校、盲学校などの特殊学校は、その教育に携わるために必要な専門領域の特殊免許が必要である。しかしながら実際には聾学校教員の3分の1程度しか聾学校教諭免許状を有していないのが現状である。そのため、各種の認定講習会や通信教育などが実施されている。また難聴学級や言語治療教室など、普通学校に併設されている学級担任は、特別な免許状を必要としない。そこで聴覚障害児教育に従事する教員に対し、専門的知識や技能の習得を図らせる為に、都道府県の教育センター、国立特殊教育総合研究所などで、長期、短期など種々の研修制度や講習会がある。

<臨床研修>

臨床研修は、聴能言語専門職の養成期間内に実施される臨床実習、卒業直後の時期に行われる新任者研修、及び更に研讃を積むための現任者研修が必要とされている。臨床研修は、適切な指導者のもとで、実際の臨床に接しながら具体的に、専門職としての技術、知識、姿勢などを学び、より資質を高めようとするものである。日本においては医師に対する卒後研修はすでに制度化され、充実が計られている。しかし聴能言語専門職においてはまだ制度化されるにいたってはいない。だがその必要性への認識及びニー ズは高く、鹿田(1991)5)の調査によると、聾学校の73%、通園施設の84%が新任者を対象とした臨床研修を実施している。研修期間は6ケ月から1年が最も多く、ついで3ケ月未満の短期研修が多い。表-1は新任者の研修内容のニーズである。

一方現任者研修については、臨床家自身のニーズは高いが、まだ十分な理解がされていない。専門性の充実と生涯教育を考えると、現任者研修の意義は大きい。これまで日本では、優れた臨床家が個々に臨床研修を担い、それによって成果をあげてきた。難聴乳幼児のハビリテーションは、乳幼児期の一時期のみの充実ですべてが解決するわけではない。

子供の成長や発達に伴う長期的なケアが準備され、一貫したプログラムが実現して、初めてハビリテーションとしての意味をもつ。そのためにも何年か毎に臨床研修を受け、人間への洞察力を高め、新しい知識や知見に触れることは重要である。

投稿日:1997年3月1日 更新日:

みんぐる

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