一般に人間の生活を考える時、視覚の重要性が強調されることが多い。
しかし聴覚は想像以上に人間の存在にとって重要な感覚である。Ramsdel(1970)l)は聴覚の機能を次のように分類している。
① 原初的レベルー最も基本的レベル。特に意識せずに音を感じる。これにより外界と心理的につながり、情緒的な安定感を得る。
② 信号的・警報的レベルー外界の認知機能。種々の事象の生起や状態を知ることで、危険の回避や適切な状況把握を可能にする。
③ 象徴的レベル一言語音を聞き取り、習得し、操作するレベル。コミュニケーション、思考の論理化・明確化・組織化をはかる。
我々は聴覚により直接的に外界とつながることができ、それにより安定して存在できる。耳栓をして軽い難聴をつくり、生活するだけでこのことは容易に実感できる。外界との間に壁が出来た様に感じ、現実感が乏しくなり、孤立感や不安が広がってくるのがわかる。また聴覚は四六時中外界に開かれた感覚であり、360度からの情報を取り込むことができる。視覚は空間的感覚であり、聴覚は時間的感覚と言われ、時間的観念の発達には聴覚は重要である。しかし、空間認知においても聴覚の関与は大きく、特に視野外では重要である。聴覚はまた、注意能力と深い関係があり、不必要な音を抑制し、必要な音を選択的に聴くことができる。特に乳児にとっては周囲の人と注意対象の共有を容易にし、コミュニケーションを促進させるうえで重要である。従って乳幼児期の聴覚の障害を、ただ単にことばの問題として考えるのは誤りである。幅広い視点からその影響を考え、残存聴力をどう活用するのか、またそれを補償する代替の感覚の利用や手段、関わり方、生活スタイルはどうあったらよいかなどを含めてハビリテーションを考えていく必要がある。