2運転補助装置

市販されている自動車は、四肢を使って運転操作を行うように設計されているため、四肢のいずれかに障害があると運転操作が困難になることがある。この場合に、運転補助装置を自動車に後付けすることで、操作方法の変更、または操作の一部の省略を行うことができる。この装置には様々な種類があるため、身体の障害の状態に応じた装置を適切に選択する必要がある。運転補助装置を使用した場合でも、一般的にはハンドル系とアクセルブレーキ系の2系統を操作するために、少なくとも二肢を随意的にコントロールできることが必要である。

1)手動アクセルブレーキ装置
主に両下肢に障害がある方が使用する。 下肢でアクセルペダルとブレーキペダルを直接操作で きない方、ペダルの踏み替え操作が円滑にできない方が、上肢で間接的にアクセルブレーキを 操作できるようにした装置である。 フロアタイプ(図3)とコラムタイプ (図4)の2種類があ り、使用目的は同じでもそれぞれのタイプによって特徴が異なるため、障害内容に応じて適切に
選択する。

(1) フロアタイプ
コントロールレバーが変速レバーの横に並んで配置されているもので、前方に押すとブレーキ操作、手前に引くとアクセル操作となる。したがって、減速時の前方加速度は、自然にブレーキをかける方向に働くことになる。フロアタイプの特徴は、装置の支点が運転席フロアに固定してあることで、カーブや曲がり角で座位バランスが保ちやすい点である。その反面、足元左側が狭くなることで、左下肢を直接装置に接触させないことが必要になる。フロアタイプは、座位バランスの不安定な脊髄損傷の方、両大腿切断の方で義足を装着して運転する方、関節可動域の狭い骨関節疾患の方に適している。
(2) コラムタイプ
コントロールレバーがハンドル前方に配置されているもので、フロアタイプと同様、前方に押すとブレーキ操作、手前に引くとアクセル操作となる。コラムタイプの特徴は、装置の支点がハンドルポストに固定してあることで足元(床)がそのままの広さで活用できる。その反面、操作中に下肢と装置が接触すること、衝突時には下肢に外傷の恐れを伴うため、障害内容によって装置の選択を検討する必要がある。特に座位バランスの不安定な方は、骨盤を後傾させることで、さらに下肢が前方に位置するため装置と下肢の間が狭くなる。コラムタイプは、両大腿切断の方で義足を装着しないで運転する方に適している。
フロアタイプ、コラムタイプともに、方向指示器スイッチ、ブレーキロックスイッチ、ホーンスイッチなどの補機スイッチが取付けてあるが、それぞれスイッチの取付け位置と大きさ、形状が異なるため操作性も併せて確認する。ブレーキロックスイッチは、発進駐車後退の時だけではなく、信号待ちの時にも積極的に使用することで、万が一、後続車に追突された場合に自動車が前方へ飛び出すことを防止できる。

2)旋回装置
主に片側上肢でハンドル操作をする方、または両手操作であっても上肢機能に左右差がある方が使用する。ハンドル操作が容易に行えるだけではなく、ハンドル操作中の運転姿勢が安定するなどの利点がある。握り部の大きさや形状には様々なものがあり、使用する方の手機能や手掌の大きさに合わせて選択するが、装置が長いほど衝突時に外傷の恐れが増すため、長さに注意する必要がある。
また、旋回装置には、ハンドルの真上に取付けるタイプ(図5)と、ハンドルの内側に取付けるタイプ(図6)の2種類があり、それぞれの特徴に応じて使い分けて使用する。前者は、取付け位置がハンドル握り部の真上になるため、自動車本来の設計基準のハンドル操作力で操作が行えるのが特徴で、運転姿勢の不安定な方、ハンドル操作力が弱い方が選択する。後者は、取付け位置がハンドル握り部の内側になるため、容易に着脱できるものもあるが、ハンドル操作力は約15%増になるのが特徴である。当事者の運転姿勢とハンドルを操作する力に問題がない方や、主に家族が運転する方が選択する。

(1) つづみ型旋回装置
手掌と指を使って小型の棒を握ることができる方が使用する。直進走行中は直にハンドルを握り、旋回操作の時だけ使用する(図7)。
(2) ノブ型旋回装置
手掌と指を使ってテニスボールなどを握ることができる方が使用する。フォークリフトにも同様の装置が取付けられているが、素早くハンドルを回すことができる(図 5.6)。
(3)横棒型旋回装置
手関節を動かす力はあり、指先で物を掴むことができるが、手掌と指を使った握りができない方が使用する(図8)。
(4) 縦棒型旋回装置
手関節を動かす力はあり、指先で物を掴むことができるが、手掌と指を使った握りができない方が使用する。この装置は、衝突時に旋回装置によって頭部、胸部、腹部に外傷の危険性が考えられるため、できるだけ使用を控えることが望ましい (図9)。
(5) 手掌縦型旋回装置
手関節を動かせるが指を動かすことができない方が使用する。この装置は上体の重心を左右へ移動させることで操作が容易になるが、座位バランスが不安定な方が使用すると、ハンドル操作中に運転姿勢が左右へ崩れ倒れやすくなる。また、急制動の際には身体の重心移動によって運転姿勢が崩れた結果、ハンドルの誤操作が起こり自動車のコントロールができなくなる危険性があるため、できるだけ使用を控えることが望ましい。また、装置が長くなるため衝突時に外傷の恐れを伴うことと、衝突などでエアバッグが開いた時に、旋回装置の位置によっては外傷の危険性が考えられるため使用にあたっては注意が必要である(図10-1、10-2)。
(6) 手掌横型旋回装置
手関節を動かせるが指を動かすことができない方が使用する。固定ベルト付を使用する場合は、衝突などでエアバッグが開いた時に、旋回装置の位置によっては上肢に外傷の危険性が考えられるため、使用にあたっては注意が必要である(図11-1、11-2)。
(7) U型旋回装置
横棒型旋回装置と手掌型旋回装置の中間で、棒型では手が離れてしまう方が使用する。握力のない方は、ハンドル旋回中に手が抜けてしまうため使用できない (図12-1 12-2)。
(8) リング型旋回装置
前腕切断によって能動義手を装着する方が使用する。衝突などでエアバッグが開いた時に、旋回装置の位置によっては上肢に外傷の危険性が考えられるため、使用にあたっては注意が必要である(図13)。

3) アクセルブレーキペダル誤操作防止装置
主に下肢の痙性や弛緩麻痺によって不随意に伸展、屈曲する方が使用する。手動アクセルブレーキ装置を使って上肢でアクセルペダルとブレーキペダルを操作する場合でも、各ペダルの機能は働いているため、ペダルの下に足部が入り込むことや、ペダルを踏み込むなどの誤操作を防ぐことができる。この装置には、ペダルの手前に遮蔽板を設置する方法 (図14) と、ペダルを上方へ跳ね上げる方法 (図15) がある。身体の大きい方や座位バランスの不安定な方は、下肢が前方へ位置して足元が狭くなるので跳ね上げる方法を選択する。また、下肢の屈曲により大腿部がハンドルに接触する方は下肢用のシートベルトを使用する。

4)左下肢操作用アクセルペダル装置
主に右下肢に障害がある方が使用する。左下肢でアクセルペダルを踏み易いように左側へ新たにペダルを増設する。この装置を増設することで、正しい運転姿勢を保ったまま安全に左下肢でアクセルペダルの操作ができる。吊り下げ方式(図16)と床から立ち上がる方式(図17)の2種類があり、既存のアクセルペダルと左下肢操作用アクセルペダルの切り替え方法が異なる。床から立ち上がる方式の中には、アクセルペダルとブレーキペダルの高さが同一のものや、ペダル間の距離が狭いものがあって誤操作を生じやすいこと。また、座位が不安定でかかとを床につけたままペダルの操作をする方には、操作性が悪くなることがあるため、吊り下げ方式を選択する。なお、使用中に右側のアクセルペダルが誤作動しないように、取り扱い説明書に従って機能を停止しておく。足踏み式の駐車ブレーキの自動車には取付けが困難な場合がある。

5)方向指示器の補助装置
主に右上肢に障害がある方が使用する。既存の方向指示器を利用した左手操作用方向指示器レバー(図18)とリモコン式(図6)のものがある。前者は構造上、操作性が悪く耐久性に問題があることと、カーブ走行時などは操作が困難になるため、リモコン式の方向指示器スイッチを選択することが望ましい。リモコン式にはライト、ホーン、非常点滅灯のスイッチも備えられているため便利である。また、オートマチックトランスミッション車の場合は、左足で運転席フロアに設置した足踏み式方向指示器を操作する方法もあり、カーブ走行時でも方向指示器の操作が可能である。

6) 前照灯の点滅補助装置 (オートライト)
主に右上肢に障害があってスイッチをつまむ操作が困難な方、または手掌型 U型など固定式 の旋回装置を使用する方が使用する。前照灯は、昼間でもトンネルや暗い所では点滅の操作が必 要になるため、 走行中に随意に操作ができることが条件になる。 最初からオートライトを備えた 自動車を選択する方法と、 後付けで前照灯の自動点滅の装置を取付ける方法がある。

7) ワイパーの補助装置
主に左上肢に障害がある方が使用する。 最初から自動式のワイパーを備えた自動車を選択する 方法と、ワイパーレバーが操作しやすいように延長レバーを取付ける方法がある。 自動式のワイ パーを備えた車種は少ないため、 延長レバーを使用することが多いが、レバーの操作性だけでな く、身体に外傷を受けないよう配慮された形状、 取付け位置になっているかを確認する。

8) セレクトレバーの補助装置
主に左上肢に障害がある方が使用する。 セレクトレバーの種類によってボタン操作が困難な場 合、後付けのレバーを取付けることでボタン操作を可能にする。 レバーの操作性だけでなく、身 体に外傷を受けないよう配慮された形状、取付け位置になっているかを確認する。

9)駐車ブレーキの補助装置
(1) 手で操作する駐車ブレーキの補助装置
主に左上肢に障害がある方が使用する。駐車ブレーキの操作が困難な場合、後付けのレバーを取付ける。レバーの操作性だけでなく、身体に外傷を受けないよう配慮された形状、取付け位置になっているかを確認する (図20-1)。また、モーターを使って簡単なスイッチ操作で駐車ブレーキの操作ができる装置もある。駐車ブレーキを右側へ移設する方法もあるが、この場合、駐車ブレーキの性能が変化することや、乗降時に邪魔になるため他の方式を選択する方が望ましい。

(2)足で操作する駐車ブレーキの補助装置
主に左下肢に障害がある方が使用する。駐車ブレーキペダルに後付けのレバーを取付けることで上肢での操作が可能になる (図20-2)。レバーの操作性だけでなく、身体に外傷を受けないよう配慮された形状、取付け位置になっているかを確認する。モーターを使って簡単なスイッチ操作で駐車ブレーキの操作ができる装置もある。

10)足動装置
主に両上肢に障害がある方が使用する。既存のハンドル操作が困難な場合、運転席の足元左側に増設されたステアリングペダルに左足部を固定し、自転車のペダル操作と同様に左足を回してハンドル操作を行う。また、アクセルペダルブレーキペダル、セレクトレバーの装置は右足で操作を行う(図21)。

11)車いす積載装置
(1) 車いすを車外(屋根)に収納する装置
車いすの収納場所が車外になることで、車高の低い (すなわち、乗降が苦手な人向きの運転座席の座面高が低い)自動車に取付けることができる(図22)。車いす座面と自動車の運転席座面の間に高低差があると移乗が困難な方、座位バランスの不安定な方、円滑に車いすの積みおろしができない方が使用する。
(2) 車いすを室内 (後席)に収納する装置
乗降には問題がなく、車いすの積みおろしだけが困難な方が使用する。室内に収納できるため外見上は他の自動車と変わらない。
運転席ドアから後席へ積みおろしするタイプは、車高が高く運転座席の座面も高い自動車に設定されているため、移乗能力の高く、体幹が安定していないと使えないことがある(図23)。
後席スライドドアから後席へ積みおろしするタイプは、車いすを装置へ誘導する際に運転座席に対して横すわりの状態となるため、体幹が安定していないと使えないことがある。

投稿日:2004年12月27日 更新日:

みんぐる

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