現在日本での難聴乳幼児に対する指導は、難聴幼児通園施設、聾学校、幼稚部、リハビリテーションセンター、病院、民間の指導機関などで実施されている。
<難聴幼児通園施設>
1975年、厚生省により認可された通園施設。現在は各地に26施設が設置されている。対象は、0~6歳までの就学前乳幼児である。1施設の定員は、30~50名で、全体で850名程度の措置が可能である。費用は保護者の収入に応じて負担金が決められている。施設、 設備、職員配置は厚生省によって基準がきめられている。職員は、聴能言語担当職員、児童指導員(保母)、事務職員、栄養士などから構成されている。難聴幼児通園施設として、単独に設置されているものもあるが、総合福祉センターの一部門として設置され、医療、相談、検査・評価、診断、訓練を綺合的に実施できる施設もある。一般的に通園の回数は週1~3日位である。個人指導、グループ指導、保育、給食、園外活動などが用意されており、親向けの教育プログラムや家庭訪問指導なども行われている。また難聴診断後の聴覚管理などの医療的サービスも実施されている。
指導方法ははとんどが聴覚一口話的アプローチを主体にしているが、子供の状態に応じて、キュードスピーチや手話・指文字を導入している施設もある。しかしいずれも基本的にはスピーチの習得をめざしている。また殆どの子供が普通幼稚園にも通園し、健聴児とのインテグレーションを実現している。
<聾学校幼稚部>
現在日本の聾学校の数は107校あり、国立が1校、私立が1校、公立が105校である。文部省は1962年から幼稚部の設置推進にのりだし、現在では99校に幼稚部がある。1996年5月現在で、385学級、1374人の3歳以上の幼児が入学している。幼稚部は3歳児学級から5歳児学級までの3学年があり、原則的には4月に入学する0 0、1、2歳児については、正式な入学措置ではなく、教育相談として対応している。日本の聾学校教育は100年以上の歴史をもち、これまでは聴力障害児の教育の主流をなしていた。しかしながらインテグレーションのニーズが増し、聾学校以外の訓練機関が増えるにつれ、聾学校への入学希望者は減少している。
指導方法は学校によって様々である。現在は聴覚活用を中心とした聴覚一口話的アプローチの学校以外に、キューサインを併用する学校が増えてきている。言語メディアについては、以前よりは柔軟な考え方がなされてきており、子供の年齢や状態に合わせた対応がとられてきている。また近年聾者が“聾’’としての生き方を積極的に求める動きも出てきており、日本手話による聾学校教育の必要性も論議されている。
<病院・センター>
近年日本では各地にリハビリテーションセンター、保健センター、児童センターができ、難聴児のハビリテーションにも取り組んでいる。また病院でも聴能言語の専門職員を置き、難聴児の検査、診断、訓棟に積極的に取り組む施設がある。ここでは、国立のリハビリテーションセンターと私立の帝京大学病院を例にとり、紹介する。
国立身体障害者リハビリテーションセンター
国立身体障害者リハビリテーションセンターは1979年に設立され、更生訓練所、病院、学院、研究所の4つの部門からなる総合的な機能をもっセンターである。難聴乳幼児のハビリテーションは病院の聴覚言語部門(第二機能回復訓練部)で実施されている。この部門は、以前は国立聴力言語障害センターとして独立しており、30年程前から聴覚を活用した早期訓棟に取り組んでいる。対象は0歳から老人までで、耳鼻科と連携して検査、評価、診断、治療、補聴器の選択、装用、訓練などを実施している。耳鼻科では難聴児・者の聴覚管理をはじめとし、人工内耳の手術も手掛け、手術からリハビリテーションまで一貫した対応が可能である。
乳幼児に対しては、聴覚一口話的アプローチが中心であるが、母親指導に重点がおかれている。殆どの子供が普通幼稚園、保育園にインテグレーションする。指導は週1~2回で、一回1~2時間、個人指導が中心であるが、時にグループ指導も実施される。特に年齢制限がないことから、長期的な対応が可能であり、必要な場合は学齢後の指導も行う。費用は保健診療となる。なお学院では、聴能言語専門職員の養成も実施されており、病院はそのための臨床実習機関でもある。
帝京大学医学部クリニック
聴覚障害の検査、診断、治療、補聴器装用指導、訓練などを含めて、医療と治療教育との一体化により、クライアントのニーズに柔軟かつ積極的に対応することをめざしている。また研究活動も活発に行われている。難聴乳幼児の早期教育の部門は、ほぼ独立した機能を持ち、医師、言語治療士を中心に、ソーシャルワーカー、補聴器ディーラーの協力をえる形態をとっている。その特徴はホームトレーニングプログラムである。帝京大学では1973年から開始され、年間100名以上がこのプログラムを受講している。親こそが子供の教育の中心的役割を果たすという原則のもとに、親の認識を高め、実践的な知識を与えることを目的にし、一週一回、計9回の講座が準備されている。講座終了後は、一人一人のニーズに合わせ、最良の教育機関が紹介されるが、一部の乳幼児は継続して個別的に就学まで指導を実施する。指導の方法は聴覚一口話的アプローチを主体にしている。医療と治療教育の一体化がはかられている利点を生かし、小児の人工内耳の取組みが期待されている施設でもある。
<民間機関>
日本では民間の機関は少ない。その中で日本の難聴乳幼児の早期教育に多大な貢献をしたのが「母と子の教室」、現在の「トライアングル」である。聴覚障害児と共に歩む会・トライアングル(前「母と子の教室」)母と子の教室は、1966年、財団法人小林理学研究所補聴研究室の附属施設として設立された。難聴児の早期発見、早期教育に早くから着手し、聴覚活用と母子コミュニケーションに焦点をあてた“母親法”による指導を実践してきた機関である。その成果は「母と子の教室の修了生についての調査研究」(1995)2)に詳しいが、成人した彼らからは早期教育とインテグレーションの成果がうかがえる。教室の研究活動の終了に伴い、母と子の教室の親の会が中心となり、聴覚障害者・両親・専門家の三者の協力による活動を目指し、「トライアングル」として新たな出発をした。おたよりの発行、出版、劇団など多彩な活動の他、教育部で難聴乳幼児の指導を実践している。