[8]脳卒中患者の最大歩行速度の回復に影響する要因(長崎1992)

臨床経験によれば。脳卒中後に歩行訓練を開始してから数か月のうちに,歩行能力の回復にはかなりの個人差があると指摘されている(Mizrahietal。1982,Winsteinetal,1989,Nakamuraetal。1992)。どのような人口学的変数や神経学的機能障害が歩行能力の回復に関する比較的簡単な予測因子になるのだろうかという疑問が生じてくる。歩行あるいは下肢の運動機能については、初期の歩行速度,年齢,リハビリテーション病院への早期入院のような複数の変数が報告されている(Gowland1982,Friedman1990,Mayoetal。1991,中村・他1991)。

MWSの回復について、8週間の理学療法をうけていた脳卒中の入院患者の分析を行った。運動機能,神経学的機能障害,†年齢を回復に影響する要因として取り上げた。28-81歳の患者81名のデータをRESから得た。TSOは11-166日であった。患者は、補助具を用いることもあったが,歩行が可能であり。東北大学医学部附属病院鳴子分院で8週間のCAGTを受けていた。入院時の神経学的症状と徴候に関する22変数で,プロマックス回転後に因子分析を行った。その結果,22変数は5項目の独立に近い要因へと分類された。片麻痺(HEMIPLEGIA)、感覚障害(SENSORYdisturbance)。筋緊張(muscleTONE),運動失調(ATAXIA),認知障害(disordersofCOGNITION)の5項目である。歩行能力に関連する生体力学的変数、すなわちA-IK,N-IK。SP,LR%、FB%にも因子分析を行い、患側下肢筋力(A-1/IUSCLE)・非患側下肢筋力(N-MUSCLE)、姿勢安定性(posturalSTABILITY)の3独立国子が得られている。1一IWSはCAGT開始時と8週後の測定値を用いた。両者の差を8週間の歩行速度の回復とする。歩行能力の回復と神経学的機能障害,運動機能,年齢との間の可能な因果関係を分析するため,パス解析モデルを作成した。図12では,神経学的機能障害は5因子のスコア,3因子の運動機能障害によって表されている。各因子は楕円形で囲まれたラベルで表示してある。歩行能力の回復は運動機能と神経学的機能障害によって直接的に決定され,他の機能障害は運動機能への影響を通じて間接的に影響すると仮定した。年齢とTSOはそれぞれ独立に回復に影響を与えるだろう。CAGT開始時のMWS(IV)は,人口学的および神経学的変数,運動障害の状況に関連しているが,MWS自体がCAGT中の歩行能力の回復に影響を与えうる。

患者を2群に分けた。一方はCAGT開始時IVが50m/min以下の患者群,他方は50m/min以上の患者群である。図12には,2群のモデルに0。2以上のパス係数が記入してある。ⅠⅤが50m/min以下の患者45名では,運動機能の因子はすべて歩行能力の回復に直接的な効果を示している。TSOは回復に負の効果があり,TSOが長いほど,歩行能力の回復は少ないことになる。ⅠⅤと年齢は,この群の回復には影響していない。それと対照的にⅠⅤが50m/min以上の患者36名のパス解析の結果では,神経学的機能障害と運動機能障害は回復との関連がない。その代わり,患者の年齢は回復に負の影響を与えている。ⅠⅤから歩行能力の回復へ向かう負のパス係数は,1Vのはやい患者はその後のCAGTによってもあまり回復しないことを示唆している。この分析の結果は,ⅠⅤが50m/min以下の患者における歩行能力の回復は神経学的機能障害の直接的な影響を受けていること、ⅠⅤが50m/min以上の患者では年齢と関係することを示している。図13はCAGT開始時のMWSとWRとの関係である。この図には,コミュニティで自立して生活を送っている高齢者392名のデータも記してある。MWSが5Om/min以上の患者では。MWSとWRとの関係は直線的であり、脳卒中ではない高齢者の記録との相違はない。図13は,脳卒中患者のh′IWSが50m/min以上にまで回復したら、その後は年齢によって決定される面の多いことを示唆している。脳卒中患者の医学的リハビリテーションでは,MWSが50m/min以上で歩Uるように歩行能力を向上させることが重要となる。それには両下肢の筋力強化と立位姿勢の安定性とが先行条件となる。

投稿日:2000年3月31日 更新日:

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