1 自動車

わが国で現在市販されている自動車は、基本的には身体に障害がない方の運動能力を基準に生産されているため、障害によって操作力が弱い方、関節可動域が狭い方が運転する場合には自動車の一部の部品を交換し、操作能力を補って残存機能に適合させる方法が一般的に行われている。しかし、近年の自動車は走行中の安全性を確保することを目的に、自動車の主要部品であるハンドル、アクセル、ブレーキを別々に制御するのではなく、各々の操作状況をコンピューターで管理し、自動車の挙動を総合的に制御するアクティブセーフティの考え方が取り入れられてきた。従来のように自動車の一部の部品だけを交換する方法は、自動車全体としてのシステムバランスが崩れるため困難になってきた。一方、1995年7月から製造物責任法(PL法)が施行され、自動車メーカー側は、自動車を設計する段階から製造物責任を考えて自動車を生産している。自動車の一部の部品を交換することで、設計した自動車とは異なる自動車となる可能性がある。そこで、市販されている自動車の特徴について理解して、できるだけ残存機能に適合する自動車をあらかじめ選択する必要がある。

1)運転座席
市販されている乗用車の運転座席の座面高は地上から約4670cm、運転席ドアから運転座席の右端までの距離は約1424cmの範囲に設定され車種によって異なる。下肢に障害のある方は、座面の高過ぎ、座席の離れ過ぎがあると安全に乗降できなくなることがある。
座席の形状は、車内での横移動を優先した平らな形状の物と、運転中の座位バランスを優先にサイドサポートのある形状の物がある。座位バランスの不安定な方が平らな形状の座席を選択すると、前後左右の加速度が身体に加わった時に誤操作を起こし易い。なお、乗降性と姿勢保持性を両立させる座席として、図1のようなものも市販されている。の座席では、乗降時にサイドサポート部が真横へ倒れるため車いすと運転座席間の溝が埋まり、安全に乗降することができる。背もたれ部は、2段階の角度調整ができることで運転者の背中と背もたれ部が密着することで、頭部とヘッドレストの間隔が適切に保たれるだけでなく、運転姿勢の保持性、主装置の操作性が向上する。また、座面の交換が可能で、座面にシリコンが挿入されたものもあり、失禁対策と褥瘡予防対策が備わっている。

運転座席の大きさは、車種によって大きな差はなく成人を基準に作られている。 低身長や低座 高の方は、座席に装備された上下調節機構だけでは視認性と操作性に不適合が生じるため補助座 席を使用することになる。この際、 重心の上方移動が伴うため補助座席の固定と運転者の安定性 に配慮する。
座席の調整方法は、手動調節と電動調節があるが、運転姿勢の不安定な方、下肢障害で上肢の 筋力も弱い方は電動式が良い。

2) ハンドル
市販されている自動車のハンドルの操作力と大きさは、障害がない方が両手で操作した際に円滑な操作が可能なように、すえ切り時の操作力 (エンジンを始動し自動車は止まったままの状態でハンドルを回す時の操作力)はハンドルの握り部で約2535N 直径は約3738cm、ハンドルの上端は肩よりやや上方に設定されている。

ハンドルの操作力に関しては、自動車の製造段階で通常のパワーステアリング操作力より、さらに4060%軽減化したパワーステアリングを組み込み、ハンドルを片側上肢で操作する方や、上肢の操作力が弱い方に対応している自動車がある。軽減率は、障害がない方が運転する時に違和感がないように4060%が限界となっている。

ハンドルは、小径への変更は可能だがエアバッグが装備されていないことと、操作力が重くなる欠点がある。
なお、運転中の安全性と快適性を確保するためには、ハンドルを随意に操作できることが重要な要素となる。障害によって運転操作方法が変更になった場合でも、次の事項ができることが求められる。

(1) 直進状態から、左右へ約2回転ずつ回せること。
(2) 素早く回した時は、片側2.5秒以内に回せること。
(3) 連続操作が可能なこと。

3) アクセルブレーキ

市販されている自動車のアクセルペダルとブレーキペダルは、障害がない方が右足で操作した際に円滑な操作が可能なように各ペダルの位置が決定されている。アクセルペダルの操作力は、約30N50Nで車種によっての差は少ない。対してブレーキペダルの操作力は、乾燥路面でアンチロックブレーキシステムが作動する時の操作力が、約160N約450Nの範囲に設定され車種によっての差が大きい。操作力の弱い方は、自動車諸元表に示された主ブレーキ制動力(減速度6.43m/s2を発生させるのに必要な踏力)の値が小さい自動車を選択する。また、下肢に障害があって最大踏力160N以下、持続力が弱い、反応時間0.6秒以上(反応時間とは、アクセルを操作した状態からブレーキの操作へ移るまでに要する時間である)、ペダルを踏み外すなどの問題がある方は、上肢でのブレーキ操作を検討する。手動アクセルブレーキ装置を使用することで操作力は約80N〜約225Nとなり、踏み替え操作も不要となる。

なお、運転中の安全性と快適性を確保するためには、アクセルとブレーキを随意に操作できることも重要な要素となる。障害によって運転操作方法が変更になった場合でも、次の事項ができることが求められる。

(1) アクセルからブレーキへの反応時間は0.6秒未満。
(2) 確実にブレーキ操作ができること。
(3) 制動力の調整ができ、急停止時は減速度を10m/s以上とすることができること。

4) シートベルト
市販されている自動車のシートベルトは3点式で、取付け位置は成人を基準に設定され車種に よる差は少ない。 衝突時の乗員保護に有効とされる拘束装置であるが、 正しい位置に装着しない と内臓破裂を引き起こすなど、かえって危険な場合がある。 ベルトを装着した時に肩ベルトは鎖 骨の真中あたりにくるように、 アジャスタブルシートベルトアンカーで高さを調節する。 腰ベル トは低い位置に合わせ、腹部ではなく骨盤を巻くようにする。 低身長や低座高の方は、肩ベルト の高さを調節しただけでは装着位置の不適合が生じるため4点式を増設し使用すると良い。
シートベルトを装着する行為が困難な方は、自動装着式を備えることのできる自動車を選択する。

5)エアバッグ
シートベルトを補助する拘束装置であり、前方からの強い衝撃に対して作動し、シートベルトの働きと合わせて頭や胸を保護する。四肢が短い方が、運転操作のために極端にハンドルへ近づいた運転姿勢をとると、エアバッグが膨らんだ時に弾かれて外傷の危険性がある。運転者が運転装置の方へ近づくのではなく、運転装置を延長してハンドルに近づき過ぎないような運転姿勢をとるようにする。

6)オートマチックトランスミッション
走行中のギアチェンジの操作を省くことができる方法として有効である。近年、技術の進歩によって動力性能、燃費の面からマニュアルトランスミッションとの差は少なくなっている。一般の使用ではオートマチックトランスミッション車を選択すると良い。

7)その他の装置
エアコンディショナーは、温度調節のために細かい操作がいらないオートエアコンを選択すると簡便である。エンジンキーは、エンジンキーを鍵穴に差し込まず、持っているだけで簡単にキーの開錠、エンジン始動ができるものもある(図2)。

投稿日:2004年12月27日 更新日:

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